投資信託のリスク指標から学ぶ、自分に合ったリスク許容度とファンドの選び方
投資信託のリスク指標、難しく感じていませんか?自分に合った資産運用への第一歩
投資信託を使った資産運用、特にNISAなどを活用して始めたばかりの方にとって、「リスク」という言葉は少し重く、漠然とした不安を感じるかもしれません。さらに、投資信託の説明資料には「標準偏差」「ベータ値」「シャープレシオ」といった聞き慣れない金融用語が並んでいて、その意味が全く分からない、と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
銀行や証券会社のウェブサイトを見たり、YouTubeで情報を探してみたりしても、専門的な解説に戸惑ってしまうこともあるかもしれません。
この記事では、投資信託のリスク指標について、初心者の方にも分かりやすい言葉で解説します。難しい計算方法そのものではなく、「その指標が何を意味するのか」「どうやってファンド選びや、ご自身の資産運用に活かせるのか」という点に重点を置いてご説明します。
この記事を読めば、リスク指標への漠然とした不安が和らぎ、自分に合ったリスクの取り方を知るヒントや、賢くファンドを選ぶための視点が得られるはずです。リスクを正しく理解し、「怖いもの」ではなく、ご自身の資産を育てるための味方にする第一歩を踏み出しましょう。
投資信託のリスク指標とは?「値動きの大きさ」や「効率」を知るためのもの
投資信託における「リスク」とは、「価格の振れ幅」や「リターンの不確実性」を意味することが一般的です。つまり、「思っていた通りにいかない可能性」のことです。決して「危険なこと」「損失が出ること」だけを指すわけではありません。
この「リスク」を測ったり、ファンドの運用成績を評価したりするために使われるのが、リスク指標です。様々な指標がありますが、ここでは特に知っておきたい代表的なものをいくつかご紹介します。
標準偏差:値動きの「ブレ幅」を示す指標
投資信託の基準価額(ファンドの値段)は日々変動します。この値動きの大きさやバラつきを示すのが「標準偏差」です。
- 標準偏差が高いファンド: 値動きが大きい傾向にあります。短期間で見ると、基準価額が大きく上昇することもあれば、大きく下落することもあります。ハイリスク・ハイリターン型と呼ばれるファンドに多く見られます。
- 標準偏差が低いファンド: 値動きが比較的小さい傾向にあります。基準価額の大きな変動は起こりにくいですが、短期間で大きな利益を狙うことには向いていません。比較的リスクが低いとされるファンドに多く見られます。
標準偏差は、そのファンドの「値動きの穏やかさ」や「ジェットコースター度」を示すものだとイメージすると分かりやすいかもしれません。過去のデータに基づいて計算されるため、将来の値動きを保証するものではありませんが、そのファンドが過去にどの程度大きく動いた傾向があるのかを知る手がかりになります。
ベータ値:市場全体に対する「連動性」を示す指標
「ベータ値」は、特定の市場全体の動き(例えば、日本の株式市場全体の平均的な動きなど)と比べて、その投資信託の基準価額がどの程度連動して動くかを示す指標です。通常、市場全体の動きを「1」として評価します。
- ベータ値が1に近いファンド: 市場全体とほぼ同じように値動きする傾向があります。
- ベータ値が1より大きいファンド(例:1.2): 市場全体が10%上昇した時に、12%上昇するなど、市場以上に大きく動く傾向があります。市場が下落する局面では、市場以上に大きく下落する可能性もあります。
- ベータ値が1より小さいファンド(例:0.8): 市場全体が10%上昇した時に、8%上昇するなど、市場より小さく動く傾向があります。市場が下落する局面でも、市場より小さく下落する可能性があります。
- ベータ値がマイナスのファンド: 市場全体の動きとは逆方向に動く傾向があります(非常に稀です)。
ベータ値は、そのファンドが市場全体の動きにどの程度「敏感に反応するか」を示す指標と言えます。市場全体の動きをベンチマーク(比較対象)として、特定のファンドがそれに対してどの程度のリスク特性を持つかを知るのに役立ちます。
シャープレシオ:リスクを取ったことに対する「リターン効率」を示す指標
「シャープレシオ」は、投資信託が「リスクを取ったことに対して、どれだけ効率よくリターンを得られたか」を示す指標です。単にリターンが高いだけでなく、そのリターンを得るためにどれだけ大きなリスク(標準偏差で測られる値動きのブレ幅など)を取ったのかを考慮して評価します。
- シャープレシオが高いファンド: 同じリターンを得るために取ったリスクが小さい、あるいは同じリスクでより高いリターンを得られた、つまりリスクあたりのリターン効率が良いことを示します。
- シャープレシオが低いファンド: リスクを取った割にはリターンが低い、つまりリスクあたりのリターン効率が悪いことを示します。
複数のファンドを比較する際に、単に過去のリターンだけを見るのではなく、シャープレシオを見ることで、どのファンドがより「上手く運用できているか」を判断する一つの材料になります。同じリターンなら、シャープレシオが高い方が効率が良い、と評価できます。これは、運用担当者の手腕を評価する指標として使われることもあります。
リスク指標を「自分ごと」にする:リスク許容度を知るヒントに
ここまでの解説で、それぞれの指標が何を示しているのか、少しイメージが掴めたでしょうか。では、これらのリスク指標を、どのようにご自身の資産運用に活かせば良いのでしょうか。
最も大切なことの一つは、ご自身がどの程度のリスクなら受け入れられるか、という「リスク許容度」を考えるヒントにする、ということです。
例えば、標準偏差が高いファンドは、過去に基準価額が一時的に大きく下落した時期があったかもしれません。そういった値動きを見た時に、あなたは冷静でいられるでしょうか?それとも、「損をしてしまうのでは」と不安になり、夜眠れなくなってしまうかもしれませんか?
ベータ値が1より大きいファンドを選んだ場合、市場全体が大きく下落した際には、ご自身の資産はそれ以上に大きく目減りする可能性があります。そうした状況を、落ち着いて見守ることができるでしょうか?
このように、過去のリスク指標を見ることで、「もし同じような値動きが起きたら、自分はどんな気持ちになるだろうか」と具体的に想像してみることができるのです。
投資の目的(いつまでにいくら必要なのかなど)や、現在の資産状況、今後の収入の見込みなどもリスク許容度を考える上で重要ですが、ご自身の「心理的な耐性」を把握することも非常に大切です。リスク指標は、その心理的な耐性を考えるための一つの「ものさし」として活用できます。
複数のリスク指標を組み合わせてファンドを選ぶ
投資信託を選ぶ際には、過去のリターンだけを見るのではなく、複数のリスク指標を組み合わせて検討することが、より賢い選択につながります。
例えば、過去1年間のリターンがどちらもプラス5%だった、架空の2つのファンドAとBがあったとします。
- ファンドA: 標準偏差が高い、ベータ値が1より大きい、シャープレシオが低い
- ファンドB: 標準偏差が低い、ベータ値が1より小さい、シャープレシオが高い
単純にリターンだけを見ればどちらも同じですが、リスク指標を見ると、ファンドBの方がファンドAよりも「値動きのブレ幅が小さく(標準偏差が低い)、市場全体の動きに比べて穏やかに動き(ベータ値が1より小さい)、リスクを取ったことに対して効率よくリターンを得られた(シャープレシオが高い)」という特性を持っていることが分かります。
もしあなたが、大きな値動きは苦手で、市場全体が大きく下がっても比較的穏やかに推移するファンドを選びたいと考えるなら、ファンドBの方が適している可能性が高いでしょう。一方、多少大きな値動きがあっても、積極的に市場以上のリターンを狙いたいと考えるなら、ファンドAのような特性を持つファンドも検討対象になるかもしれません。
このように、複数のリスク指標を見ることで、ファンドの性格や過去の運用状況をより深く理解し、ご自身の目的やリスク許容度に合ったファンドを選びやすくなります。
リスクを理解し、賢い資産運用につなげるために
投資信託におけるリスク指標は、一見難しそうに見えるかもしれませんが、その意味を正しく理解すれば、決して怖いものではありません。むしろ、ご自身の資産を育てる上で、非常に役立つ情報源となります。
リスク指標は、単にリスクを回避するためのものではありません。ご自身がどの程度のリスクなら快適に受け入れられるかを知り、そのリスクに見合ったリターンを狙うための、自分だけの「羅針盤」として活用できます。
リスク指標を理解することは、目の前のファンド選びだけでなく、長期的な資産形成の道のりにおいて、一時的な相場の変動に一喜一憂しすぎず、冷静な判断を続けるための土台となります。
これから投資信託を選ぶ際や、現在保有している投資信託について考える際に、ぜひ標準偏差やシャープレシオといったリスク指標にも目を向けてみてください。分からないことがあれば、焦らず一つずつ調べてみましょう。
リスクを正しく理解し、自分に合ったリスクの取り方を判断すること。それが、賢く着実に資産を育てていくための、非常に大切な一歩となるはずです。