投資信託のリスクを味方にする

投資信託のリスク指標を使って投資信託をどう比べる？自分に合ったファンドを見つける具体的な手順（初心者向け）

Tags: 投資信託, リスク指標, ファンド選び, 比較, 初心者, 標準偏差, ベータ値, シャープレシオ, 資産運用

投資信託を始めたばかりで、将来のために少しずつ資産を増やしていきたいとお考えのことと思います。NISAなどを活用されている方も多いのではないでしょうか。

運用を続ける中で、「リスク」という言葉を耳にしたり、運用報告書などで難しそうな数字（リスク指標）を見かけたりして、漠然とした不安を感じることもあるかもしれませんね。

「このファンドは大丈夫なのかな？」「他のファンドと比べてどう違うんだろう？」

そう思っても、基準価額の上がり下がりだけでは、そのファンドの「性格」や「実力」の全ては分かりにくいものです。

この記事では、投資信託のリスク指標が「何を意味するのか」を簡単に振り返りながら、これらの指標を使って複数のファンドを「どのように比較すれば良いのか」、そして「どうすれば自分に合ったファンドを選べるのか」を、具体的なステップ形式で分かりやすく解説します。

リスクを正しく理解し、数字を上手に活用することで、あなたの資産運用はより賢く、そして納得のいくものになるはずです。

なぜ投資信託選びに「リスク指標」での比較が必要なのか

投資信託を選ぶとき、多くの人がまず注目するのは過去の運用実績、つまり「リターン（どれだけ増えたか）」ではないでしょうか。確かにリターンは重要ですが、それだけでは不十分です。

なぜなら、高いリターンには、それに見合うだけの「リスク（値動きのブレ幅）」が伴うことが多いからです。例えば、大きく値上がりしたファンドは、その裏で大きく値下がりする可能性も秘めているかもしれません。

リスク指標は、この「リスク」を数値で客観的に測るためのツールです。そして、単にリスクの大きさを知るだけでなく、リスクとリターンの関係性や、市場全体の動きとの関連性など、ファンドの様々な「性格」を知る手がかりになります。

リスク指標を使って複数のファンドを比較することで、リターンだけでは分からない、それぞれのファンドが持つ特性を把握し、よりバランスの取れた視点で自分に合ったものを選ぶことができるようになります。

投資信託の主なリスク指標をおさらい

ファンドを比較する上でよく使われる、代表的なリスク指標の意味を簡単におさらいしましょう。これらの数字を見ることで、ファンドがどのようなリスク特性を持っているのかが見えてきます。

標準偏差（ひょうじゅんへんさ）

何を測る指標？ 過去の運用実績の「値動きのブレ幅」や「ばらつき」の大きさを測る指標です。

具体的な意味（高い/低い場合） * 標準偏差が高い: 基準価額のブレ幅が大きい、つまり値動きが激しいファンドと言えます。短期間で大きく儲かる可能性がある一方、大きく損をする可能性も高くなります。 * 標準偏差が低い: 基準価額のブレ幅が小さい、つまり値動きが比較的穏やかなファンドと言えます。大きな値上がりは期待しにくいかもしれませんが、大きな値下がりのリスクも比較的低いと言えます。

これは例えるなら、ジェットコースター（標準偏差が高い）と、観覧車（標準偏差が低い）のような違いです。どちらが良い・悪いではなく、あなたが「どのくらいのスリルに耐えられるか」によって選ぶべきものが変わってきます。

ベータ値（ベータち）

何を測る指標？ 市場全体（TOPIXやS&P500などの特定の指数）の動きに対して、そのファンドの基準価額がどれだけ連動して動くかを示す指標です。

具体的な意味（高い/低い場合） * ベータ値が1より大きい（例：1.2）: 市場全体が1%動いたときに、それ以上に（例：1.2%）動く傾向があるファンドです。市場の上昇局面ではより大きく値上がりする可能性がありますが、下落局面ではより大きく値下がりする可能性があります。 * ベータ値が1に近い（例：0.9〜1.1）: 市場全体とほぼ同じように動く傾向があるファンドです。 * ベータ値が1より小さい（例：0.8）: 市場全体が1%動いたときに、それよりも小さく（例：0.8%）動く傾向があるファンドです。市場の上昇局面での値上がりは穏やかになる可能性がありますが、下落局面での値下がりも穏やかになる可能性があります。 * ベータ値が0に近い: 市場全体の動きとはほとんど連動しない傾向があるファンドです。

これは例えるなら、世間の流行（市場全体）に敏感に反応する人（ベータ値が高い）と、あまり左右されない人（ベータ値が低い）のような違いです。

シャープレシオ（シャープレシオ）

何を測る指標？ 投資効率を測る指標です。具体的には、リスク（標準偏差で測られる値動きのブレ幅）1単位あたり、どれだけ効率的にリターンを得られたかを示します。

具体的な意味（高い/低い場合） * シャープレシオが高い: 取ったリスクに対して、より高いリターンを得られていることを示します。つまり、投資効率が良いファンドと言えます。 * シャープレシオが低い: 取ったリスクに対して、得られたリターンが相対的に小さいことを示します。投資効率が低いと言えます。

シャープレシオは、単にリターンが高いか低いかだけでなく、「リスクを背負った上で、どれだけ上手く運用できたか」を見るのに役立ちます。同じくらいのリターンが得られているファンドでも、シャープレシオが高い方が、より少ないリスクでそのリターンを達成した、つまり「効率が良い」と判断できます。

これは例えるなら、同じ目的地（リターン）に行くのに、渋滞の少ないスムーズな道（シャープレシオが高い）を通ったか、それとも渋滞だらけの大変な道（シャープレシオが低い）を通ったか、といったイメージです。

リスク指標を使った投資信託比較の具体的なステップ

それでは、これらのリスク指標を使って、候補となる複数の投資信託をどのように比較検討していけば良いのか、具体的な手順を見ていきましょう。

ステップ1：気になるファンドのリスク指標を確認する

まず、あなたが良いなと思っている、あるいは比較してみたいと思っている複数の投資信託をいくつか選びます。そして、それぞれのファンドについて、先ほどおさらいした「標準偏差」「ベータ値」「シャープレシオ」の数値を確認します。

これらの情報は、投資信託の「目論見書（もくろみしょ）」や「運用報告書」、あるいは証券会社やモーニングスターなどの投資信託情報サイトで確認することができます。通常は過去1年や3年、5年といった期間ごとの数値が掲載されています。比べる際は、必ず同じ期間の数値を見るようにしてください。異なる期間の数字を比べても意味がありません。

例えば、以下のような情報を集めたとします。（これはあくまで架空の例です）

| ファンド名 | 標準偏差（過去3年） | ベータ値（過去3年） | シャープレシオ（過去3年） | | :--------- | :------------------ | :----------------- | :------------------------- | | Aファンド | 15.0 | 1.1 | 0.8 | | Bファンド | 10.0 | 0.7 | 1.2 | | Cファンド | 14.5 | 1.0 | 1.0 |

ステップ2：各指標の意味を思い出しながら、候補ファンドを並べて読み解く

集めた数字を、それぞれの指標の意味を思い出しながら読み解いてみましょう。

このように、数字を並べてみることで、それぞれのファンドが持つ異なるリスク特性が見えてきますね。

ステップ3：自分の「リスク許容度」と照らし合わせる

次に重要なのが、これらのファンド特性が、あなたの「リスク許容度」に合っているかを考えることです。

「リスク許容度」とは、あなたが資産運用において、どのくらいの損失までなら精神的に耐えられるか、また経済的に許容できるか、ということです。

もしあなたが「値動きが大きいのは苦手だ」「夜眠れなくなると困る」というタイプであれば、標準偏差が高いファンドやベータ値が高いファンドは、あなたのリスク許容度を超えている可能性があります。Bファンドのような、標準偏差やベータ値が低いファンドの方が安心できるかもしれません。

逆に、「短期的な値動きには動じない」「多少リスクを取ってでも、市場全体よりも高いリターンを狙いたい」というタイプであれば、AファンドやCファンドのようなファンドも選択肢に入ってくるでしょう。

シャープレシオは、リスクを取った上での「効率」を示します。同じようなリスク特性を持つファンドであれば、シャープレシオが高いファンドの方が、より効率的な運用ができていると判断する材料になります。

このように、リスク指標の数値は、単なるデータではなく、「そのファンドの乗り心地」や「市場との付き合い方」を示唆しており、それがあなたの「どのくらいの乗り心地なら大丈夫か」「市場とどう付き合いたいか」というリスク許容度と合致するかを考えるヒントになるのです。

ステップ4：指標以外の情報も合わせて総合的に判断する

リスク指標は、ファンド選びの非常に強力なツールですが、それだけで全てを決めるべきではありません。なぜなら、リスク指標はあくまで「過去の実績」に基づくものであり、将来を保証するものではないからです。

また、リスク指標からは分からない情報もたくさんあります。例えば、そのファンドがどのような資産（国内株式、海外債券など）に投資しているのか、どのような運用方針なのか、手数料はどのくらいかかるのか、といった点も、ファンドを選ぶ上で非常に重要です。

リスク指標での比較で気になるファンドが見つかったら、必ずそのファンドの目論見書などをじっくり読み、投資対象や運用方針、手数料などを確認し、あなたの投資目的（いつまでにいくら貯めたいかなど）や、他の保有資産とのバランスも考慮して、最終的な判断を行うようにしてください。

リスク指標を理解することが、賢い資産運用につながる理由

この記事で見てきたように、投資信託のリスク指標は、単に難しい数字の羅列ではありません。それは、ファンドの「値動きの特性」や「市場との関連性」、「運用効率」を知るための、とても役立つ情報源です。

これらの指標を理解し、複数のファンドを比較検討する際に活用することで、あなたは漠然とした「リスクへの不安」を、具体的な「判断のための情報」に変えることができます。

自分がどれくらいのリスクなら受け入れられるのか（リスク許容度）を考えながら、リスク指標を見ることで、自分の感覚だけでなく、客観的な数字も根拠にしてファンドを選ぶことができるようになります。これは、感情に流されずに、自分にとって本当に合ったファンドを選ぶために非常に重要なことです。

リスクは資産運用において完全に避けることはできません。しかし、リスク指標を理解し、適切に付き合うことで、あなたはより安心して、そしてより目的に沿った形で、大切な資産を育てていくことができるはずです。

この記事が、あなたがリスク指標を味方につけ、賢い資産運用の一歩を踏み出すためのお役に立てれば幸いです。