基準価額だけ見てない?投資信託の『隠れた実力』を見抜くリスク指標の見方
投資信託、基準価額チェックだけではもったいない理由
投資信託を始めたばかりの皆さま、日々、ご自身の投資信託の基準価額(ファンドの値段)をチェックされていることと思います。基準価額が上がっていると嬉しくなり、下がっていると少し不安になるのは、多くの方が経験される自然な気持ちです。
もちろん、基準価額の動きを見ることは大切です。しかし、基準価額の「今の数字」や「どれだけ上がったか/下がったか」といった情報だけでは、その投資信託の持つ「本当の姿」や「隠れた実力」を完全には捉えきれません。
例えるなら、体重計の数字だけを見て「健康かどうか」を判断するようなものです。体重だけでなく、体脂肪率、筋肉量、血圧など、いくつかの指標を合わせて見ることで、より正確に体の状態を把握できますよね。
投資信託においても、基準価額の動きという「結果」だけでなく、その「結果」に至るまでの過程や、ファンドが持つ「特性」を教えてくれる指標があります。それが、リスク指標です。
「リスク」と聞くと、「怖いもの」「避けなければいけないもの」と感じるかもしれません。ですが、投資におけるリスクは単に危険という意味ではなく、「リターンの振れ幅」や「不確実性」を示します。そして、このリスクを正しく理解し、付き合っていくことが、賢い資産運用には欠かせません。
この記事では、投資信託のリスク指標がどのような情報を教えてくれるのか、そしてそれを知ることが、皆さまのファンド選びや日々の資産運用にどう役立つのかを、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
リスク指標は投資信託の「性格診断」
リスク指標は、それぞれの投資信託が持つ「性格」や「体質」を知るための診断ツールのようなものです。基準価額が同じように増えていたとしても、あるファンドは穏やかに、別のファンドは激しく上下しながら増えていたかもしれません。また、市場全体が大きく動いたときに、それに素直についていくファンドもあれば、あまり影響を受けないファンドもあります。
これらの「性格」や「体質」を知ることが、自分に合ったファンドを選ぶ上で非常に重要になります。ここでは、特に知っておきたい代表的なリスク指標をいくつかご紹介しましょう。
1. 標準偏差:値動きの「ブレ幅」を知る
標準偏差は、投資信託の基準価額が過去にどれだけ大きくブレながら推移してきたかを示す指標です。簡単に言えば、「値動きの安定度合い」を表します。
- 標準偏差が高い場合: 過去の値動きのブレ幅が大きいことを意味します。短期間で大きく値上がりすることもあれば、大きく値下がりすることもある、「ハイリスク・ハイリターン」の傾向があるファンドと考えられます。(ただし、リターンが伴わない高リスクもあります)
- 標準偏差が低い場合: 過去の値動きのブレ幅が小さいことを意味します。比較的安定した値動きをする、「ローリスク・ローリターン」の傾向があるファンドと考えられます。
どう活用できる? 標準偏差を見ることで、「このファンドは値動きが比較的穏やかそうだ」「このファンドは大きく動く可能性があるな」といった、ファンドの値動きの特性を事前に把握できます。短期間での大きな値下がりが気になる方は標準偏差が低いファンドを、ある程度の値下がりは許容できるので、より大きなリターンを狙いたい方は標準偏差が高いファンドも検討の対象になるでしょう。
(例)同じ期間で年率+5%のリターンだったファンドAとファンドBがあるとします。 * ファンドA(標準偏差が高い):基準価額が大きく上がったり下がったりを繰り返しながら、最終的に+5%になった。 * ファンドB(標準偏差が低い):基準価額が比較的滑らかに上昇して+5%になった。 このように、同じリターンでもその過程は全く異なる場合があり、標準偏差はその過程(値動きのブレ幅)を教えてくれます。
2. ベータ値:市場に対する「連動性」を知る
ベータ値は、市場全体(TOPIXやS&P500などの特定のインデックス)の動きに対して、その投資信託の基準価額がどれだけ連動して動くかを示す指標です。市場全体を「1.0」として、相対的に見ます。
- ベータ値が1.0に近い場合: 市場全体とほぼ同じように値動きする傾向があります。インデックスファンドなどの多くはこの値に近くなります。
- ベータ値が1.0より大きい場合(例: 1.2): 市場全体が1%動いたとき、それ以上に(例: 1.2%)動く傾向があります。市場が上昇する局面では市場平均より大きく上昇する可能性がありますが、下落する局面では市場平均より大きく下落する可能性もあります。市場平均よりリスクが高いと見なされることが多いです。
- ベータ値が1.0より小さい場合(例: 0.8): 市場全体が1%動いたとき、それ以下に(例: 0.8%)しか動かない傾向があります。市場が大きく下落する局面でも、市場平均より値下がり幅が小さくなる可能性がありますが、市場が大きく上昇する局面でも、市場平均ほどは上昇しない傾向があります。市場平均よりリスクが低いと見なされることが多いです。
- ベータ値が0に近い、またはマイナスの場合: 市場全体の動きとほとんど連動しない、あるいは逆の動きをする傾向があることを示唆します。
どう活用できる? ベータ値を見ることで、そのファンドが「市場全体の波に乗りやすいタイプか」「市場とは少し違った独自の動きをするタイプか」を判断できます。市場全体の値上がりの恩恵を大きく受けたい場合はベータ値の高いファンドを、市場全体が大きく下落したときの影響を和らげたい場合はベータ値の低いファンドを検討するなど、ポートフォリオ全体のバランスを考える上で役立ちます。
3. シャープレシオ:リスクを取った「効率」を知る
シャープレシオは、投資信託が取っているリスク(主に標準偏差で測られる値動きのブレ幅)に見合ったリターンをどれだけ効率的に得られているかを示す指標です。「リスク1単位あたりどれだけ超過リターン(無リスク資産のリターンを上回るリターン)を得られたか」を表します。
- シャープレシオが高い場合: 取っているリスクに対して、効率的にリターンを得られていることを意味します。これは「運用が上手くいっている」「リスクの取り方が効率的である」と評価できます。
- シャープレシオが低い場合: 取っているリスクに対して、得られているリターンが少ないことを意味します。同じリターンを得るのに、より大きなリスクを取っていると解釈できます。
どう活用できる? シャープレシオは、同じような値動きの傾向(似たような標準偏差)を持つ複数のファンドを比較する際に特に有用です。「どちらも同じくらい値動きが大きいけれど、より効率よくリターンを稼げているのはどちらか?」を知ることができます。シャープレシオが高いファンドは、効率の良い運用ができている可能性が高いと言えます。複数のファンドで迷った際に、最後の判断材料の一つとして確認すると良いでしょう。
(例)同じ標準偏差(値動きのブレ幅が同程度)のファンドCとファンドDがあるとします。 * ファンドC(シャープレシオが高い):標準偏差に見合った、十分なリターンを得られている。 * ファンドD(シャープレシオが低い):標準偏差は同じだが、得られているリターンが少ない(または、リターンは同じだがもっと高いリスクを取っている)。 シャープレシオを見れば、ファンドCの方が「リスクの取り方がうまい」と言えます。
リスク指標を自分自身の運用にどう活かすか?
これらのリスク指標を理解することは、単にファンドの「成績表」を見るだけでなく、自分自身の資産運用に大きく役立ちます。
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自分に合ったファンド選び:
- あなたは、ある程度の値動きのブレ幅は気にしないから、より大きなリターンを狙いたいタイプですか? それとも、価格が大きく下がるのは心配なので、リターンは少し控えめでも安定した値動きのファンドを選びたいタイプですか? 標準偏差を見れば、ファンドがあなたの「リスク許容度」に合っているかどうかのヒントになります。
- 市場全体の成長を取り込みたいのか、それとも市場とは違った動きをするファンドで分散を図りたいのか? ベータ値を見れば、ファンドがあなたの運用方針に合っているかどうかの参考になります。
- 複数の候補ファンドがあるとき、シャープレシオを見れば、同じようなリスク水準で、より効率的にリターンを得られそうなファンドはどちらか比較検討できます。
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ポートフォリオのバランス調整: 複数の投資信託に投資する場合、それぞれのファンドのリスク指標を確認することで、ポートフォリオ全体としてどれくらいのリスクを取っているのか、意図したバランスになっているのかを把握しやすくなります。例えば、すでに市場平均より大きく動くファンドを多く持っているなら、次に加えるファンドは市場とあまり連動しないタイプにするなど、調整の参考にできます。
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長期的な視点での評価: 投資信託の運用成果は短期間で一喜一憂するものではありません。しかし、長期的な運用においても、リスク指標は有効な情報を提供してくれます。特にシャープレシオは、長期にわたってどれだけ効率的な運用ができているかを評価する上で重要な指標となり得ます。
まとめ:リスク指標は賢い資産運用の羅針盤
投資信託の基準価額は、そのファンドの「今の値段」や「過去の価格変動」という重要な情報を示しています。しかし、それだけでは見えない「値動きの激しさ」「市場との連動性」「リスクを取った効率」といった、ファンドの「性格」や「隠れた実力」は、リスク指標を見ることで初めて見えてきます。
リスク指標は、決して難しい数式を理解する必要はありません。それぞれの指標が「何を意味しているのか」「その数字が高いか低いかで、ファンドのどのような特性が分かるのか」を把握するだけで、ファンド選びやご自身の資産運用に対する理解が格段に深まります。
リスクを漠然と怖いものとして避けるのではなく、リスク指標を通じてリスクの性質を正しく理解し、自分にとって心地よいリスクの取り方を知ること。そして、リスク指標を賢いファンド選びや資産運用のための「羅針盤」として活用することが、皆さまの長期的な資産形成において、きっと力になるはずです。
この記事が、皆さまが投資信託のリスク指標と上手く付き合い、より自信を持って資産運用に取り組むための一助となれば幸いです。