リスク指標だけ見てない?投資信託選びで失敗しないための「もう一歩」
投資信託のリスク指標、それだけで十分ですか?
投資信託のリスク指標、例えば標準偏差(値動きのブレ幅を示す指標)やシャープレシオ(リスクに見合ったリターンが得られているかを示す指標)といった言葉を耳にしたことがあるかもしれません。NISAなどで投資信託を始めたばかりの方にとって、これらの指標は難しく感じられる一方で、「これを見ればファンド選びができるのかも」という期待もあるのではないでしょうか。
確かに、リスク指標はファンドの過去の成績や特性を客観的に知る上で非常に役立ちます。ファンドの値動きの大きさや、リスクを取ったことに対してどれだけ効率よくリターンを上げられたかなど、数字で示してくれるからです。
しかし、これらの指標はあくまで「過去のデータ」に基づいています。そして、投資信託選びにおいて、リスク指標だけを見ていると見落としてしまう大切な情報があるのも事実です。
この記事では、あなたがリスク指標を賢く活用し、さらに「もう一歩」踏み込んだファンド選びができるようになるためのヒントをお伝えします。リスク指標の基本的な意味を理解した上で、それと合わせて確認すべき大切なポイントを知ることで、漠然としたリスクへの不安を解消し、より自分に合った資産運用につなげていきましょう。
リスク指標が教えてくれること、そして「それだけでは分からない」こと
まず、主要なリスク指標が何を教えてくれるのかを簡単に振り返りましょう。
- 標準偏差: ファンドの基準価額が平均的にどれだけブレるかを示します。この数値が高いほど、値動きのブレが大きい(ハイリスク・ハイリターンになりやすい)傾向があります。
- 例: Aファンドの標準偏差が10%、Bファンドが5%なら、一般的にAファンドの方が値動きが大きい傾向にあると言えます。
- ベータ値: 市場全体の動き(例えば日経平均株価やS&P500などの指数)に対して、ファンドの値動きがどれだけ連動するかを示します。ベータ値が1より大きいと市場より大きく動きやすく、1より小さいと市場より小さく動きやすい傾向があります。
- 例: ベータ値が1.2のファンドは、市場が1%上昇すると1.2%上昇しやすく、市場が1%下落すると1.2%下落しやすい傾向があります。
- シャープレシオ: 取ったリスク(標準偏差で測られるブレ幅)1単位あたりに対して、どれだけ超過リターン(無リスク資産のリターンを超えた部分)を得られたかを示します。数値が高いほど、リスクを取った効率が良い(運用が上手くいっている)と言えます。
- 例: Aファンドのシャープレシオが0.8、Bファンドが1.2なら、同じリスクを取った場合、Bファンドの方がより多くのリターンを得られた(あるいは同じリターンを得るのに取るリスクが小さかった)ということになります。
これらの指標は、ファンドの「過去の成績に基づく統計的な特性」を示しています。しかし、これらを見ても分からない、あるいは将来を考える上で注意が必要な点があります。
例えば、
- なぜ、その標準偏差になったのか? (具体的に何に投資しているから値動きが大きいのか?)
- なぜ、ベータ値がその数値なのか? (市場全体と比べて、どういう構成だから連動性が高い/低いのか?)
- なぜ、シャープレシオが高い(低い)のか? (特定の銘柄が大きく値上がりした?特定の戦略が当たった?)
といった、「背景」や「中身」までは、これらの指標だけでは分かりません。また、これらの指標はあくまで「過去」のデータです。過去の成績が将来も続くと保証されているわけではありません。
リスク指標と合わせて確認したい「プラスアルファ」の視点
では、リスク指標を参考にしつつ、さらに賢くファンドを選ぶためには、他にどのような点を確認すれば良いのでしょうか。ここで言う「プラスアルファ」の視点とは、ファンドの「中身」や「運用方針」、そして「コスト」といった、より本質的な情報のことです。
1. ファンドの運用方針とポートフォリオの中身
これが最も重要です。リスク指標は結果として出てくる数値ですが、その結果を生み出している「原因」とも言えるのが、ファンドが何に投資しているか、どのように運用しているか、です。
- 何に投資しているか(資産クラス、地域、銘柄):
- 国内株式、海外株式、債券、リート(不動産投資信託)、コモディティ(商品)など、何に主に投資しているかを確認しましょう。一般的に、株式は債券よりも値動きが大きい傾向があります。海外、特に新興国への投資は、先進国への投資よりも値動きが大きくなる傾向があります。
- 具体的な「組入上位銘柄」や「業種構成」なども確認できる場合があります。どのような企業に投資しているのかを知ることは、ファンドの将来性やリスクをより具体的にイメージするのに役立ちます。
- どのような運用戦略か(アクティブ vs パッシブ):
- 特定の指数に連動することを目指す「パッシブ運用」(インデックスファンドなど)なのか、指数を上回る成績を目指す「アクティブ運用」なのかを確認しましょう。アクティブ運用の場合、どのような戦略(成長株、割安株、テーマ投資など)で運用しているのかを知ることも大切です。戦略によって、値動きの特性やリスクの源泉が異なります。
例えば、同じ「海外株式ファンド」でも、先進国の大型優良株に幅広く投資しているファンドと、特定のテーマ(例:AIや再生可能エネルギー)に関連する新興国の小型グロース株に集中投資しているファンドでは、標準偏差もベータ値も大きく異なるでしょう。シャープレシオが良くても、その高いシャープレシオが特定のテーマへの集中投資によるものだった場合、今後そのテーマが不調になった際のリスクも考慮する必要があります。
リスク指標で大まかな傾向をつかんだら、必ず目論見書や月報で「何に投資しているのか」「どのような考え方で運用しているのか」を確認する習慣をつけましょう。ファンドの「素顔」を知ることが、納得のいく投資につながります。
2. 信託報酬(運用コスト)
信託報酬は、ファンドを保有している間にかかる運用管理費用です。基準価額から毎日差し引かれるため、長期保有するほど運用成績に影響します。リスク指標そのものではありませんが、「リスクを取って得たリターンから確実に差し引かれるコスト」として、ファンドの実質的な効率性を考える上で無視できません。
同じような資産クラスに投資するファンドであれば、信託報酬が低い方が、最終的に手元に残るリターンは多くなる傾向があります。シャープレシオが似ているファンドで迷った場合、信託報酬を比較してみるのも一つの方法です。
3. 純資産総額の推移
純資産総額は、そのファンドに投資されている資金の合計額です。この額があまりに小さい、あるいは減少傾向にある場合、ファンドの運用が不安定になったり、最悪の場合は繰上償還(運用終了)になったりするリスクもゼロではありません。もちろん、純資産総額が大きいからといって必ずしも運用成績が良いわけではありませんが、多くの投資家から支持されているかどうかの目安の一つにはなります。
リスク指標と「プラスアルファ」を組み合わせて活用する
では、これらのリスク指標と「プラスアルファ」の情報は、どのように組み合わせて活用すれば良いのでしょうか。
- リスク指標でファンドの「値動きの特性」や「過去の運用効率」をざっくり把握する:
- 標準偏差で「値動きの荒さ」を、ベータ値で「市場との連動性」を、シャープレシオで「過去のリスク対比リターン効率」を確認します。
- 複数の候補ファンドがある場合、これらの指標を比較することで、それぞれのファンドが過去にどのような特性を持っていたのかを比較検討できます。
- 「プラスアルファ」の情報で「将来のリスク・リターンを決める源泉」と「コスト」を理解する:
- 目論見書や運用報告書で、ファンドが何に、どのように投資しているのか(ポートフォリオの中身、運用方針)を確認します。これが、そのファンドが今後どのような値動きをする可能性が高いかを考える上での最も重要なヒントになります。
- 信託報酬を確認し、長期保有した場合のコスト負担を把握します。
- 自分の「リスク許容度」と照らし合わせる:
- リスク指標で示される「値動きの大きさ」や、ポートフォリオの中身を見た上で「自分がこの値動きのブレに耐えられるか」「投資対象に対して納得できるか」を考えます。
- 例えば、標準偏差が高いファンドは短期的な値動きが大きい可能性が高いですが、その投資対象があなたが長期的に成長を期待できる分野であれば、多少のブレは許容できる、と判断できるかもしれません。逆に、標準偏差が低くても、ポートフォリオの中身が自分の意図しないものだったり、信託報酬が非常に高かったりする場合は、再検討が必要でしょう。
リスク指標は、いわばファンドの「健康診断の結果」のようなものです。診断結果(数値)を見て異常がないか、他の人と比べてどうかを確認することは大切ですが、その診断結果がなぜ出たのか(生活習慣や体質)、そして今後どういう健康状態を維持したいのか(目標やリスク許容度)を合わせて考えることが、より良い健康管理(資産運用)につながるのです。
まとめ:指標を入り口に、ファンドの「素顔」を知ろう
投資信託のリスク指標は、ファンドの過去の特性を知るための非常に有効なツールです。特に、標準偏差、ベータ値、シャープレシオは、ファンドの値動きの大きさ、市場との連動性、リスク効率を測る上で参考になります。
しかし、これらの指標はあくまで過去のデータに基づいた「結果」であり、それだけでは将来の運用成果を保証するものではありません。また、なぜそのような結果になったのか、つまりファンドの「中身」や「運用方針」を知ることはできません。
リスク指標をファンド選びの入り口として活用しつつ、必ず目論見書などでファンドの運用方針やポートフォリオの中身、そしてコスト(信託報酬)といった「プラスアルファ」の情報も確認するようにしましょう。
リスク指標で漠然とした不安を感じるのではなく、指標を正しく理解し、さらにファンドの「素顔」を知ることで、自分自身のリスク許容度や運用目標に合ったファンドをより自信を持って選べるようになるはずです。リスクを味方につけ、賢い資産運用を続けていくために、ぜひこれらの視点を取り入れてみてください。